常夏 その三
「それほど大げさに噂するほどのことではございません。今年の春のことでした。夢の話を父がしましたのを、人伝に聞きつけた女が、自分こそそれについて申し上げたいことがあると、名乗り出てきました。兄の柏木の中将がそれを聞きつけまして、本当にそうした関係のあった証拠があるのかと、女のところへ話を聞きに訪ねました。私は詳しい事情はあまり存じません。まったく今どき珍しいこととして、世間の人々も噂しあっているようです。こういうことは、父にとりましても、またわが家にとっても恥になることでございます」
と言う。光源氏は、それでは噂は本当だったのかと思い、
「ずいぶん大勢のお子たちがおいでのようなのに、列から離れて取り残された雁の子までも、無理やり探し出されるとは欲の深いことですよ。私のほうこそ、子供がまったく少ないので、そんな隠し子を見つけ出したいものだけれど、当家では名乗る気もしないと思うのか、とんと耳に入ってこない。それにしても名乗り出た以上は、その姫君の話はまんざら無関係ではないのでしょう。内大臣も若いころは、ずいぶんところかまわず忍び歩きもなさっていられたようだから。底まで清く澄まぬ水に映る月のように、どうせ曇らないわけにはいかないだろうね」
と笑いながら言うのだった。
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