蛍 その三十一
あの撫子の歌を残した女との間に生まれた娘のことを忘れず、あの雨夜の品定めにも、その女のことは話さなかったほどなので、
「あの娘はどうなったことだろう。なんとなく頼りなかった母親の考えから、可愛らしい子だったのに、とうとう行方不明になってしまった。だいたい、女の子というものは、どんなことがあっても目を離してはいけなかったのだ。利口ぶって、私の子だと名乗って、今頃は惨めな境涯に落ちぶれてさまよっているのではないだろうか。たとえどんな暮らしをしているにせよ、娘だと言ってきてくれたら」
としみじみ懐かしがり、心にかけつづけている。子息たちにも、
「もし、私の子だと名乗るものがいたら、聞き逃さないようにな。若いころ、浮気心に任せて、よくない振舞いもたくさんあったが、その中で、この子の母親は、まったくそんな軽々しい気持ちではなく愛していたつもりだったのに、つまらないことに気をくさらせて、自分から身を隠してしまったのだ。それで何人といない娘を一人失くしてしまったのが残念で」
といつも話していた。もっとも、一頃などはそれほどでもなく忘れていたのだが、光源氏や他の人々がそれぞれ姫君を大切に養育しているので、自分だけが思い通りにならないのが、実は気に入らず、不本意に思っているのだった。
夢を見て、夢占いの上手なものを呼び、判断させると、
「もしかしましたら、長年お気づきでいらっしゃらなかったお子さまが、誰かの養女になっていて、そのことでお耳になさっていることがございませんでしょうか」
と言ったので、
「女の子が、人の養女になることはめったにあるものではない。一体どういうことなのだろうか」
などと、この頃は何かにつけてそのことを考えたり、話題にもしているようだった。
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