蛍 その二十三
「御仏が、尊いお心からお説きになっておかれたお経にも方便というものがあって、悟りを得ていない者は、経文のあちこちで教えが違い、矛盾しているのではないかという疑問をきっと抱くことでしょう。方便の説は方等経の中に多いけれど、詮じつめていけば、結局は同じ一つの主旨によっているので、悟りと迷いの差とは、この物語の中の人物の善人と悪人との差ぐらいの違いです。善意に解釈すれば、すべて何事も無駄なものはなくなってしまいますよ」
と、物語を本当にたいしたもののように論じてしまった。
「ところで、こうした古い昔の物語の中にも、私のような誠実なくせに、女に相手にされない愚か者の話はありますか。ひどく世間離れのした人情味に乏しい何かの物語の姫君でも、あなたのように冷たくて、空とぼけている人は、またといないでしょう。さあ、では、いよいよあなたたちの仲を世にも珍しい物語に書いて、後世に伝えましょう」
と近くに寄り添ってきて言うのだった。
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