蛍 その八

 光源氏は、別の戸口からこっそり抜け出して帰った。


 兵部卿の宮は、玉鬘のいるのはあのあたりだろうと、見当をつけたが、それが思っていたより間近な様子なので、心がときめき、言いようもなく美しい羅の帷子の隙間から覗くと、一間ほど隔てた見通しのきくあたりに、思いもかけない光がこうしてほのかに玉鬘を照らしているのを、何という心憎い情景かと目に止める。


 たちまち女房たちが蛍を隠してしまったので、光は消えてしまった。けれどもこのほのかな蛍の光は、風流な恋の糸口にもなりそうに見えた。ほんの一瞬、わずかに見えただけだが、すらりとした姿で横になっている玉鬘の容姿が美しかったのを、兵部卿の宮は見飽き足らず心残りに思い、本当に、光源氏のあの計画通りに、この趣向は兵部卿の宮の心に深く染み入ったのだった。

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