胡蝶 その八
兵部卿の宮はまた、長年連れ添った北の方が亡くなり、この三年ばかり一人住まいの寂しさをかこっているので、何の気がねもなく、結婚したい気持ちを漏らす。今朝もすっかり酔ったふりをよそおい、藤の花を冠に挿してあだっぽくふざけている様子は、とても魅力があった。光源氏も思惑通りと、内心得意だが、つとめて気づかない顔をしている。
兵部卿の宮は光源氏から盃を頂くときに、ひどく困って、
「心に思い悩んでいることがなければ、このまま逃げて帰りたいところです。もうお盃は頂戴できません」
と盃を辞退した。
紫のゆゑに心をしめたれば
淵に身投げむ名やは惜しけき
と言って、光源氏に「同じ挿頭を」と、盃に添えて藤の花をあげた。光源氏は機嫌よく笑い、
淵に身を投げつべしやとこの春は
花のあたりを立ち去らで見よ
と、しきりに引き留めるので、兵部卿の宮は帰ることもできず、今朝の管弦の遊びは、昨夜以上にまたいっそう興深いものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます