玉鬘 その四十二

 なき夕顔は、ただもう若々しくおっとりして、いかにも嫋々となよやかだったが、玉鬘は気高く、態度などもこちらが恥ずかしいくらい奥ゆかしく、たしなみも身につけていた。


 こんな姫君に育った筑紫を、右近はどんなによいところだろうかと想像してみるが、それにしては、筑紫から帰ったほかの昔の知り合いたちが、みな田舎臭くなっているので、どうも合点がいかなかった。


 日が暮れたので、御堂に上って、翌日もまた玉鬘たちは終日勤行して過ごした。


 秋風が谷間からはるかに吹き上ってきて、とても肌寒いのも、いろいろと感慨深い思いでいる乳母たちには身にしみて、あれこれ何かと思い続けるのだった。これまでは、人並みの暮らしもとてもおぼつかないだろうと、気持ちが沈みこんでいたのに、右近は話のついでに、父の頭の中将の威勢を、



「女君のお生みになった、それほどでもないお子たちまで、それぞれ皆、ひとかどのように扱われて立派に成人させていらっしゃいます」



 と話したのを聞くと、玉鬘もこんな日陰の身の上でも、望みが持てるかもしれないという気持ちになった。


 帰るときも、お互いに京の住所を知らせあって、もしまたひょっとして行方が分からなくなったらと、右近は不安になるのだった。


 右近の家は、六条の院の近所なので、乳母たちの住む九条とはそう遠くなく、相談するにも手掛かりができた気がした。

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