玉鬘 その三十

「何よりも、まず、乳母様はここにいらっしゃいますか。玉鬘様はどうなさいましたか。あてきと呼んでいた女童は」



 と聞いて、夕顔のことは言い出さない。



「皆様いらっしゃいます。玉鬘様も大人になっていらっしゃいます。とにかく、乳母様に、これこれと申し上げましょう」



 と言って、幕の内に入った。


 話を聞いて誰も彼も驚いた。



「まあ、夢のような気持ちがします。ほんとうに恨めしい、何というひどい人かと思っていたそのお方に、まさかここでめぐり合うなんて」



 と言いながら、隔ての幕のほうに乳母は近寄ってきた。よそよそしく間を隔ててあった屏風のようなものも、すっかり押し開けて、まず言葉も出ず、お互い泣きあっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る