玉鬘 その三十一
年老いた乳母は、ただ、
「私どものご主人のお方様はどうしましたか。これまで長い年月、夢の中でも、お方様のいらっしゃるところを見たいと、大願を立ててきましたけれど、はるばる遠い筑紫の田舎では、風の便りにも噂を耳にすることもできませんでした。それが本当に悲しくてならず、老残のこの身が生きながらえていますのが、実に情けなくてなりません。それでも母君に置き去りに捨てられた玉鬘様がいじらしくも、お可哀そうなのが、冥土の旅の障りになろうかと思い、どうお世話したらいいのか、扱いかねていますので、まだどうやら死にもしないでおります」
と話しつづけた。右近は、昔のあの時、人に話してもどうしようもなくて、途方にくれたことよりも、今のほうがもっと返事のしようがなく困り果てて、
「いえ、もう、申し上げても詮無いことでございます。お方様は、とうにお亡くなりになりました」
と言うなり、二、三人がそのまま涙にむせかえり、どうしよもなく涙をせきとめかねるのだった。
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