乙女 その六十四

「男はどんなに身分が低いものでさえ、気位は高く持つべきだと言います。あまり憂鬱に沈み込んで、そんな悲観なさってはいけません。そんなにめそめそなさることがあるでしょうか。縁起でもない」



 と言った。



「いえ、そのことではないのです。人から六位だなどと軽蔑されているようなので、これも一時のことと考えても、やはり宮中へまいるのも、気が重くて行きたくありません。亡き太政大臣がご存命でいらっしゃったなら、冗談にも人から侮蔑されるようなことはなかったでしょうに。父上は、遠慮のいらないはずの実の親ですけれど、実に他人行儀に私を突き放していらっしゃるので、住んでいらっしゃるところにも、気軽に出かけて、親しくしていただくこともできません。東の院にお越しのときだけ、お側近くにまいります。西の対の花散里の方は、お優しくしてくださいますが、実の母上でさえ生きていらっしゃったなら、何のくよくよすることがあったでしょう」



 と言って、涙のこぼれるのを紛らわしている様子が、ひどく可哀想なので、大宮はいっそうほろほろと泣いて、



「母に先立たれたものは、身分の高いにつけ低いにつけ、誰でもそんなふうにかわいそうなものですが、自然に持って生まれた宿縁によって、一人前に成人さえすれば、軽んじる人もいなくなるものです。だからあまり深く思いつめないようにしなさい。亡くなった太政大臣がせめてもうしばらく生きていてくださればよかったでしょうに。この上もない後ろ盾として、光源氏にも亡き大臣と同様に頼りにしておすがりしていますが、思うようにいかないことが多いですね。頭の中将の気性も、並々の人とは違うと、世間では誉めそやしているようだけど、私に対しては、前々と違うひどい態度が多くなっているので、長生きさえ恨めしくなります。その上、まだ生い先の長い若いあなたまでが、こんなふうに、たとえ少しでも、身の上を悲観していらっしゃるのでは、ほんとうにもう、すべてが辛い世の中なのですね」



 と言って、泣くのだった。

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