乙女 その六十二

 夕霧はその人をちらと見かけるにつけても、



「お顔立ちはそんなにおきれいではない人だな。こんな人でも父君はお見捨てにはならなかったのだ」



 などと思い、



「自分が恨めしく思っているあの人の面影を、また一途に心にかけて恋しがっているのも、我ながら味気ないことだ。性質がこの人のように柔和な人であれば、そんな人とこそ愛し合いたいものだ」



 と思った。



「そうかと言って、面と向かって見る張り合いも起こらないような不器量なのも、相手がかわいそうな気がする。こうして長年この人と連れ添っていらっしゃるけれど、父君はこの人を、そんな器量や性質と承知の上で、几帳などを隔てて何やかやとまぎらわして、顔を見ないように心がけていらっしゃるのも、ごもっともなことだ」



 と思う夕霧の心は、大人も顔負けしそうなほどだった。


 大宮は尼姿にこそなっているが、まだとても美しく、こちらでもあちらでも、どこへ行っても女の人は器量が美しいものだとばかり夕霧はいつも見慣れていた。それなのに花散里は、もともと不器量の上、少し女盛りを過ぎた感じで、痩せすぎて髪も少なくなっているなど、ついこんなふうに難をつけたい気持ちになるのだった。

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