乙女 その三十二
大宮は夢にも思わなかったことなので、ただ意外さに驚くばかりで、
「それが本当なら、そうおっしゃることもこもっともですけれど、私は一向に二人のそんな本心は知らなかったのです。本当にいかにも残念でならないといえば、私のほうこそ誰よりもはるかに嘆きたいところです。それなのにあの二人と一緒にして私をお責めになるのは、お恨みに思いますよ。雲居の雁をお預かりしてからは、とりわけ心をつかって大切にしまして、あなたのお気づきになれないことも、立派に仕込んで育て上げようと、人知れぬ苦労もしております。まだ一人前にもならないうちに、孫可愛さに心の闇に迷って、いそいで二人を結婚させようなどとは思いもよらないことでした。それにしても、一体誰がこんなことをお聞かせしたのでしょう。つまらない世間の人たちの噂を信用して、そんなにきつくお怒りになり頭ごなしにお叱りになるのも、情けないことです。根も葉もないことから大切な雲居の雁のお名前がけがれましょう」
と言うと、頭の中将は、
「何が根も葉もないことですか。お仕えする女房たちも、陰ではみんなしてあざ笑っているようですよ。それが実に口惜しく、怪しからぬことに思われてならないのです」
と言い捨てて、座を立ったのだった。
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