乙女 その三十一

 大宮は化粧した顔色も変わって、驚きのあまり目を大きく見張った。



「一体まあ、どんなことで、こんな年寄りが、今更、あなたにそんな嫌な思いをおさせしたのでしょう」



 と言うのも、頭の中将はさすがに気の毒に思うが、



「母上を信頼できるところと頼りにして、幼い雲居の雁をお預けしておきました。父親の私は、この雲居の雁を幼い頃から一向に面倒を見ないで、さしあたっては弘徽殿の女御が入内してもあまり順調ではないのを苦にして、そちらのお世話ばかりにかまけていました。それでも雲居の雁だけは、母上が何とか一人前にしてくださるだろうと、頼りきっておりましたのに、夕霧の若君との間に心外なことが起こりましたようで、実に口惜しくてなりません。夕霧は確かに天下に並ぶもののない物知りには違いありませんが、近親の従姉弟どうしでこんなことになるのは、世間からも分別のない軽率なことと思われます。さしたる身分でないものどうしの間でもそういわれておりますので、夕霧のためにも実に不体裁なことです。男は、血縁でない他人同士で、時流に乗って豪勢に暮らしている家に、婿として華やかに迎えられるのが、結構な縁組というものです。親戚同士の馴れ合いの結びつきというのは、どうも正当ではないきらいがあって、光源氏もこのことを耳になされば不愉快にお思いになりましょう。かりに二人を一緒にさせるにしても、実はこういうことになったと、まず父親の私にお知らせくださったなら、表向きの体裁もいろいろ取り繕って、少しは世間体も格好のつくような形にしておきたかったのです。それを幼い二人の思うままに放任なさいましたとは、心外で情けのうございます」



 と言うのだった。

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