乙女 その三十

 それから二日ほど経って、頭の中将は大宮邸にまた出かけた。大宮も頭の中将がこうしてしげしげ来るときはとても機嫌がよく、喜んでいる。尼削ぎの額髪を梳きつくろい、きちんとした小袿などを上に着て、わが子ながら気のおける頭の中将の人柄なのでものを隔てて他人行儀に会う。頭の中将はご機嫌斜めなので、



「こちらにお伺いするのも体裁が悪く、女房たちが何と思って見ていることかと、気が引けて不愉快でなりません。私はこれと言って取り柄のない人間ですが、この世に生きているかぎりは、母上に終始お逢いして、お互いに心が通うようにと心がけておりました。それなのに不出来な娘のことで、母上をお恨みせずにはいられない不祥事が起こってまいりまして、こうまで考えつめまいと一方で反省するのですが、やはりどうしてもお恨みする気持ちを静めることができませんので」



 と涙をおし拭った。

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