乙女 その五

 亡き太政大臣家の葵の上の残した夕霧の若君の元服を、光源氏は早くしようと急いだ。はじめは二条の院でするつもりだったが、祖母の大宮が、孫の元服の式をとても見たがるのもごもっともなことと、気の毒に思ったので、やはり夕霧の育った三条の太政大臣邸でそのまま挙行した。


 夕霧の伯父にあたる頭の中将は、今は大納言で右大将になっている。その他の叔父たちも、みな上達部で、帝の信任もことのほか厚い人ばかりなので、主人側としてその方々が、我も我もと競って式に必要な用意万端を、準備した。世間までもがその噂に大騒ぎして、大変な威勢の豪華な準備の様子だった。


 光源氏は、はじめ夕霧を四位にしようかと思い、世間の人々もきっとそうするだろうと思っていたが、夕霧はまだ弱年だし、いくら自分の思い通りになる世の中だからといって、わが子をいきなり高い位につけたりするのは、かえって月並みすぎるだろうと考えられ、四位にすることを取りやめたのだった。

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