朝顔 その二十九

 紫の上は、



「朧月夜こそ、聡明で、教養も深い点では、人に優れていらっしゃるお方と伺っております。軽々しいお振る舞いなどにご縁のないお人柄でしたのに、どうしてあんな不思議なことがおありになったのでしょう」



 と訊いた。光源氏は、



「まったくその通りですね。あでやかで器量の美しい女の例としては、やはり引き合いに出さなくてはならない人でしょうね。それにつけても我ながら、お気の毒なことをしたと悔やまれることも多いのですよ。まして浮気な色好みの男などは、年をとるにつれて、どんなに後悔することが多いでしょう。人よりは比較にならぬほど落ち着いていると思っている私でさえそうなのだから」



 などと言い、朧月夜の身の上にも、少し涙をこぼした。光源氏はまた、



「あなたが、人数にも入らないと軽んじていらっしゃる大堰の山里の人が、身分に似合わず、ものの道理などもよく心得ているようだけど、もともと他の人とは身分の点で同列に扱えないので、気位の高いところなども、私のほうでも問題にもしていないのです。それにしてもまったく取り柄のない女というのには、まだ会ったことがありません。それでも、人並みより優れた女は滅多にいないものです。東の院に淋しく住んでいる花散里は、性質が昔とはまったく変わらずいじらしく思われます。ああはとても真似できないものです。そういうところが本当によくできた人なので、気に入って世話をはじめてこの方、いまだに変わらず、慎ましく控え目な態度で過ごしてきたのです。今ではもう、お互いが離れられそうもなく、深く愛しています」



 などと、昔や今の話に夜が更けていったのだった。

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