朝顔 その二十八

 もっと雪の玉を大きくしようと欲張って転がしていくうちに、動かせなくなって困っているようだった。また女童の中には、東の縁先などに出て、庭の女童たちが雪玉を転ばしあぐねているのを見ては、気を揉みながら笑っている子達もいた。光源氏は、



「先年、藤壺の宮のお前の庭でも、雪の山をお作りになりました。それは昔からよくしたありふれた遊びなのですが、そんなちょっとしたことも、あちらではやはり何か目新しく思われる工夫がされていたものです。


 何かの折々につけても、藤壺の宮がお亡くなりになったことはいつまでも残念でなりません。


 藤壺の宮は私にはいつも距離を置いて対していらっしゃったので、くわしい様子を間近に拝したことはなかったのでしたが、宮中にお暮しのころは、私のことも気の許せるお世話役とお思いくださいました。私のほうでも藤壺の宮を頼りにして、何かことあるごとに相談申し上げたものでした。そんな時は、表立って才女ぶられるというようなことはないのに、いつも相談した甲斐はあり、ほんの些細なことでも、こちらが満足するように取り計らってくださったものです。この世にあれほど素晴らしいお方がまたといらっしゃるでしょうか。女らしくいかにも柔らかくて、つつましやかな中にも、教養の深さは立ち並ぶものもありませんでしたよ。


 あなたはさすがに、藤壺の宮の血筋を伝えてよく似ていらっしゃるようだけれど、少々、嫉妬がひどくて困ったところがあり、、利かぬ気の勝っていらっしゃるのが難点ですね。朝顔の姫宮の御気性は、また藤壺の宮とは変わっていらっしゃいます。もの淋しい折に、これという用がなくても、お便りを交し合って、こちらもそれなりの気遣いをするというようなお方は、もうこの姫宮だけになりました」



 と言うのだった。

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