薄雲 その二十七

 しばらくは帝の返事もなかったので、僧都は自分から進んでこんな秘密を話したとこを、帝が不埒だと怒っているのかと当惑して、難儀なことになったと思い、そっと恐る恐る退出しかけるのを、帝が呼び戻した。



「こんなことをいつまでも知らないで過ごしていたなら、来世までも罪障の咎めを受けただろう。そんな重大な秘密を、今までそなた一人の胸の中に秘め隠してこられたのは、かえってそなたを油断ならない人物だと思ってしまう。またほかにこのことを知って、世間に漏らし伝えるような人はいないのだろうか」



 と訊ねた。



「とんでもございません。拙僧と王命婦のほかに、絶対、この秘密の仔細を存じているものはございません。それだからこそ、仏天の照覧が実に恐ろしいのでございます。この節、天変がしきりに起こって罪をさとし、世の中が物騒なのも、この秘密のためでございましょう。帝がまだ幼少で、物事の分別のないころは、それでもよろしゅうございましたが、次第に成人あそばしまして何事も理解ができるときになりましたので、天はその罪咎を明らかに示すのです。すべてのことは、親のときに原因があるのでございましょう。帝が天下の乱れの原因を何の罪の結果ともご存知ないのが恐ろしく、断じて口外すまいと決心しておりました。そのことをつとめて考えないようにし、忘れようとしてきたことを、今更になって申し上げた次第でございます」



 と泣く泣く奏上している間に、夜も明けきってしまったので、僧都は退出したのだった。

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