薄雲 その二十八

 帝は悪夢のようなただならぬ恐ろしい一大事を聞いて、さまざまに思い悩んだ。亡き桐壺院の御霊に対してもこのことが往生の妨げになっているのではないかと不安であり、また、光源氏が、本当の自分の実父なのに、こうして臣下として子の自分に仕えているのも、何とも身にしみて畏れ多いことだったと、あれこれ考えては悩み、日が高くなるまで、寝所から出なかった。


 光源氏も、帝のそうした様子を耳にして、驚いて参内した。


 帝はそうした光源氏の様子を見るにつけても、ますますたまらなく耐え難く思い、涙をこぼした。光源氏はそれを見て、近頃は亡き藤壺の宮を偲び、涙の乾く暇もないほど悲しんでいたので、大方そのせいの嘆きだろうと案じるのだった。


 その日、たまたま式部卿の宮が亡くなったことを奏上すると、帝はますます世の中の騒がしいことを嘆いた。こうした折なので、光源氏も、二条の院には帰らず、帝の側に付きっ切りで伺候している。

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