薄雲 その二十五
ある静かな夜明けのことだった。帝の側には誰も控えておらず、宿直のものも退出してしまった折に、僧都は年寄りじみた咳払いをしながら、世の中の無常のことなどあれこれ帝に話した。その話のついでに、
「まことに申し上げにくいことでありまして、申し上げれば、かえって仏罰もあたるかと思い、憚られるところも多いことでございます。けれどもまた、帝がそのことをご存知なくていらっしゃいますと、罪障も多く、天の照覧も恐ろしく存じられます。そのことを拙僧が心中ひそかに嘆いております間に、やがてこの命も絶えてしまいましたなら、帝のために何のお益にもなりますまい。さだめし仏も拙僧の心を不正直だと思いになりましょう」
とだけ、奏上しかけて、あとは何かを言いあぐねている。帝は、
「いったい、どういうことなのだろう。この世に恨みの残るような不満でもあるのだろうか。法師というものは、世離れた聖僧でさえ、ねじくれた嫉妬心が深くて、いやなものだが」
と思い、
「幼い頃から私は何の隔て心もなく付き合ってきたのに、そなたのほうでは、こんなふうに私に何か隠しておられたことがあったとは、恨めしくて心外なことだ」
と言った。
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