薄雲 その十八

 そのころ、太政大臣が亡くなった。世の重鎮だった人なので、帝もとても嘆いた。しばらく政界から引退していた間でさえ、天下は大騒ぎしたほどなので、まして今度は悲嘆にくれる人が多いのだった。


 光源氏も、とても残念で、これまでは政治のことを一切太政大臣に任せきりにしていたからこそ、ゆっくり休むこともできたものを、これからは心細くもあり、政務が忙しくなるだろう、と煩わしく思い、嘆いている。


 帝は年よりは大人びて成長し、政治向きのことなども、心配するまでもないのだが、光源氏のほかにとりたてて後見する人もいないので、これからは誰に帝の補佐役を譲って、静かな出家の本懐を遂げようかと考えると、太政大臣の死をこの上なく残念に思うのだった。


 太政大臣の追善の法事なども、子息や孫にも増して、心を込めて弔問し、何くれと丁寧にお世話したのだった。


 その年は一体に世の中の変事が多く、朝廷においても神仏のお告げがしきりにあり、物騒な上に、天にも、異常な怪しい月や日や星の光が見えたり、雲のたたずまいまで不気味で、世間の人々の驚くことばかりが多い。


 陰陽道や天文道、暦の博士たちが、吉凶を占った奏上文にも、奇妙な、世に滅多にないような凶兆が様々あげられた。それについて、内大臣の光源氏だけは、心の内に思い当たることがあるのだった。

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