薄雲 その十九

 藤壺の宮が、正月のはじめからずっと病気で苦しんでいたが、三月には重態になったので、三条の宮に帝のお見舞いがあった。帝が桐壺院の崩御にあった頃は、まだ小さくて、それほど深く悲しみも感じなかったが、今回はとても心痛な様子なので、藤壺の宮も悲しさもひとしおに感じた。



「今年は必ず死を逃れられない年とわかっていたけれど、そうひどい容態とも思えませんでしたので、寿命の尽きるのを悟っているような顔をいたしますのも、人々から、厭味でわざとらしく思われるのかと遠慮されまして、後世のための法会なども、とりたててことさらには常と違うようにいたしませんでした。私のほうから参内して心静かにゆっくりと、昔の思い出話など申し上げたいと思いながら、気分のすぐれたときも少のうございまして、残念にも、とうとう気の晴れぬ思いのまま、今日まで過ごしてしまいました」



 と、いかにも弱弱しく言った。藤壺の宮は今年三十七歳の厄年だった。そうはいってもまだ若々しく盛りの美しさに見えるのを、帝は惜しくも悲しく思った。



「用心あそばさなくてはならない厄年にあたっていらっしゃいました上、気分もすぐれない幾月もお過ごしでいらっしゃいましたので、それだけでもずっと案じもうしあげておりましたのに、精進や祈祷なども、いつもより特別になさらなかったとは」



 と、とても心配した。つい最近になってから、急に気づいて、様々な加持祈祷をさせるのだった。

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