薄雲 その十七
ここはこんな人里離れた田舎だが、こんなふうに光源氏が時々泊まることもあるので、ちょっとしたお菓子や蒸しご飯くらいは食べるときもある。近くの嵯峨野の御堂や、桂の院などに寄るのにかこつけて来たりする。それほど一筋に明石の君に夢中になっているふうにはみせない。けれども、そうかといって、あまりあからさまには明石の君に間の悪い思いをさせるようなこともなく、並々の相手といった軽々しい扱いはしないのは、やはりこの人への寵愛は格別なのだと思われるのだった。
明石の君もこうした光源氏の気持ちを十分に知っていて、出過ぎたと思うようなことはせず、また、あまり卑下もしないで、光源氏の意向に逆らうようなことはなく、ほんとうに非の打ちどころのない態度なのだった。
並々ならず高貴な身分の女君の許でさえ、光源氏は、これほど打ち解けることはなく、気高い態度をくずさないということを噂に聞いているので、
「お側近くに住むようになって、あまり親しくなってしまうと、かえって珍しくもなくなり、人に見下されるようなことも起こるだろう。時たまにしろ、こうしてわざわざお越しいただくほうが、私自身も面目が立つというもの」
と明石の君は思うようだった。
明石にいる入道も、別れるときにはあんな強いことを言ったのだが、光源氏の意向や、大堰での暮らしぶりを知りたがって、しきりに使いの者を寄越しては様子を聞いて、胸のつぶれる悲しい思いをすることもあり、また面目をほどこすような、うれしい思いもたくさんするのだった。
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