薄雲 その十六

 大堰では、とてものどやかに、趣深く住みこなしている。家のたたずまいも風変わりで、珍しい感じの上に、明石の君の様子などは、逢うたびごとに、高貴な人々にも見劣りするところがなく、器量といい姿といい、心栄えも申し分なく、女盛りに美しくなっていった。



「ただ世間並みの受領の娘と思われるだけで、目立たないでいたとしたら、こうした身分の違いの縁組も世間にまんざら例のないことでもないと見過ごされもするだろうが、世にもまれなあの偏屈者の父入道の評判などが、全く困ったものだ。この人の人柄などは、これで結構なのに」



 などと光源氏は考えた。


 いつもはかない逢瀬で、満足しないまま別れるせいか、今度もゆっくりもできず慌しく帰るのも心苦しくて、光源氏は、 〈世の中は夢の渡りの浮橋か〉とばかり、嘆く。筝の琴があるのを引き寄せて、あの明石の浦で、夜更けに明石の君が弾いた音色を、いつものように思い出した。琵琶を聞きたいと所望すると、明石の君は、少し掻き合わせて弾いた。


 光源氏はそれを聞いて、どうしてこうまで何もかもよく身に備わっているのだろうと感心する。姫君のことなど、こまごまとくわしく聞かせて過ごした。

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