薄雲 その六
明石の君は乳母に向かって、
「あなたにもこれで別れなければならないとは。これまで明け暮れの心の憂さも、手持ち無沙汰な淋しさもふたりでしみじみ話し合って慰めあってきたのに、これからは、姫君ばかりか、あなたまで奪われて、心細さがいっそう増してどんなに悲しいでしょう」
と、明石の君は泣くのだった。乳母も、
「これも前世からのご縁なのでしょうか。思いがけないことでお目にかかりお仕えしましてからの長い年月、いつもおやさしくしていただきました。その心遣いは忘れられないので、さぞ恋しく思われることでしょう。よもやこのままご縁が切れてしまうようなことはないと存じます。いつか最後にはまたご一緒になれるに違いないと心頼みにしております。けれどもしばらくの間だけでもお別れして思いもかけないところにまいりますことが、どんなに心苦しいことでございましょう」
と、泣く泣く日々を過ごすうちに、早くも十二月になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます