薄雲 その六

 明石の君は乳母に向かって、



「あなたにもこれで別れなければならないとは。これまで明け暮れの心の憂さも、手持ち無沙汰な淋しさもふたりでしみじみ話し合って慰めあってきたのに、これからは、姫君ばかりか、あなたまで奪われて、心細さがいっそう増してどんなに悲しいでしょう」



 と、明石の君は泣くのだった。乳母も、



「これも前世からのご縁なのでしょうか。思いがけないことでお目にかかりお仕えしましてからの長い年月、いつもおやさしくしていただきました。その心遣いは忘れられないので、さぞ恋しく思われることでしょう。よもやこのままご縁が切れてしまうようなことはないと存じます。いつか最後にはまたご一緒になれるに違いないと心頼みにしております。けれどもしばらくの間だけでもお別れして思いもかけないところにまいりますことが、どんなに心苦しいことでございましょう」



 と、泣く泣く日々を過ごすうちに、早くも十二月になった。

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