薄雲 その七

 雪や霰が降る日が多くなり、明石の君は、心細さがいっそうまさって、



「どうして私はこうもいろいろと物思いが多いのだろう」



 と嘆いては、いつもよりいっそう姫君の髪をなでたり、綺麗に着飾ったりして暮らしていた。


 空も暗くかげり雪が降り積もった朝、明石の君は来し方行く末のことを果てしもなく思い続け、いつもは、あまり縁側近くに坐ったりしないのに、今日は端近に出て、池の水際の氷などを眺めていた。


 白い着物の柔らかく萎えたのを幾枚も重ね着して、我を忘れた様子で物思いに沈んでいる姿は、髪の様子といい、最高の貴い身分の方でも、これほど上品で美しい方はいらっしゃらないだろうと、女房たちも思うのだった。


 明石の君はあふれ落ちる涙を払って、



「これから先、姫君がいらっしゃらなくなると、こんな雪の日にはなおさらどんなに心細い思いをすることだろう」



 といじらしく泣きながら、




 雪深み深山の道は晴れずとも

 なほふみ通へ跡絶えずして




 と言う。乳母はさめざめと泣いて、




 雪間なき吉野の山をたづねても

 心のかよふ跡絶えめやは




 と言って慰めた。

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