薄雲 その四
明石の君の母である尼君は思慮深い人だった。
「くよくよしたってつまらないでしょう。姫君にお目にかかれないことは、たしかに胸の痛むことでしょうれど、私たちとしては結局、姫君のおためによいようにと考えなければなりません。光源氏様だってまさかいい加減なお話をなさっているわけではないでしょう。こうなれば何も言わずすっかり信頼しきって姫君をあちらにお渡し申し上げなさい。帝の御子でさえ、母方の素性次第で、身分にそれぞれ相違ができるのです。この光源氏様にしても、世に二人とないすばらしいお方なのに、臣下の身分なのは、母方の祖父の故大納言が今一段地位が高くなかったために、更衣腹などと人から言われた弱みがあったのが原因だったのでしょう。光源氏様でさえそうなのだから、まして一般の臣下の私たちでは、はじめから比較にもなりません。また、たとえ生母が親王や大臣の姫君でも、その方が北の方でなければ世間から軽く見られます。父君も平等にはお扱いなれないものなのです。ましてこの姫君は、あちらの身分の高い方々に、同じようにお子がお生まれになったりすれば、すっかり気圧されておしまいになるでしょう。身分相応に、父親からも一応大切に可愛がられた子こそ、そのまま世間からも軽く見られない始まりになるのです。姫君の袴着の式にしても、こちらではいくら一所懸命に力をいれたところで、こんな人目にもつかない山里のわび住まいでは、何の見栄えがあるでしょう。何もかもすっかり光源氏様におまかせになって、姫君をどんなふうにお扱いになるか、その様子を見ていらっしゃい」
と言い聞かせた。
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