薄雲 その二

 そういう考えらしいとは、前々から察していたことなので、明石の君はやはりそうだったのか、と胸もつぶれそうになる。



「今更、貴い人の子のように大切に扱いくださっても、おそらく世間の人は何かと聞きこんで噂しましょうし、かえって世間体をつくろうことにお困りになるのではないでしょうか」



 と姫君を手放したくない気持ちなのも、光源氏は無理もないと思う。それでも、



「姫が継子扱いされ、可哀そうな目にあるのではないかという心配は、まったくいらないのですよ。紫の上は、もう何年もの間、こういう可愛い子が生まれないのを淋しがっていて、斎宮の女御がすっかり大人になっているのさえ、強いて世話をしてあげるくらいだから、まして、こんなに恨みようもない可愛らしい幼い人を見たら、夢中になって可愛がらずにはいられない性分なのです」



 など、紫の上の人柄の理想的なことを話す。



「ほんとうに前々からどういうお方だったら満足なさって落ち着かれるのだろうかと、世間も噂するのも、薄々耳にした光源氏様の浮気な性分が、紫の上によってすっかりおさまり、落ち着かれてしまったのは、よくよく一通りの宿縁ではなく、そのお人柄も、多くの女君たちの中でとりわけ際立って、すぐれていりゃっしゃるにちがいない」



 と想像した。

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