薄雲

薄雲 その一

 冬に入るにつれて、大堰川のほとりの明石の君の住まいは、いっそう心細さがつのっている。明石の君は、光源氏の訪れも間遠なので心も落ち着かず、上の空のような頼りない気持ちにとらわれ、淋しく明かして暮らしている。光源氏も、



「やはりこうした暮らしは続けられないだろう。あの私の邸に近い東の院に移る決心をなさい」



 とすすめてくるけれど、明石の君は二条の院の近くに移っても、光源氏のつれなさをすっかり見尽くしてしまったなら、それこそすべては終わりで、そのときは何といって嘆けばいいのやらと、思い乱れるのだった。光源氏は、



「あなたがどうしてもあちらへ移らないなら、せめて姫君だけでも先に移さなければ。こんなところにいつまでもおくわけにはいかない。姫君の将来について私にかねて考えていることもあるので、このままではもったいない。二条の院の紫の上も、姫の話を聞いて、しきりに逢いたがっているから、しばらく、あちらで紫の上に馴染ませてから、袴着の式なども、内々にはしないで、晴れて披露してあげたいと思う」



 と本気で相談するのだった。

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