松風 その二十三

 めぐりきて手に取るばかりさやけきや

 淡路の島のあはと見し月




 と光源氏が詠む。ある人は、




 浮雲にしばしまがひし月影の

 すみはつるよぞのどけかるべき




 と、光源氏を讃えた。


 左大弁は、少し年輩の人で、亡き桐壺院の御代にも信任を得て親しく仕えた人だったので、




 雲の上のすみかを捨てて夜半の月

 いづれの谷に影かくしけむ




 と亡き桐壺院を偲んだ。


 人それぞれに歌はたくさん詠んだようだったが、わずらわしいのであとは省こう。


 親しい内輪の人相手のしんみりした話が、少しくだけてきて面白くなり、人々は千年も側で聞いていたいような、光源氏の姿なのだった。いつか紫の上が言った、



「斧の柄も朽ちてしまうくらい」



 いつまでもここにとどまっていたいのだが、今日はもう逗留するわけにはいかないので、急いで帰るのだった。

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