松風 その二十四

 もらった引き出物の衣裳をそれぞれ、肩にかけた人々が庭に立って、霧の絶え間にその姿が見え隠れするのが、前庭の花の色に見違えそうに色とりどりで、ことのほか美しく見える。


 近衛司の音楽で名高い舎人や、舞楽の東遊の名手などが、たくさんお供をしているのに、このまま解散では張り合いがないので、神楽歌の「其駒」などを歌わせて賑やかに遊ばせた。その引き出物として人々が着物を脱いで次々舎人たちに与える。着物のそれぞれの色合いは、風が吹いて秋の紅葉の錦を着せたように見えるのだった。


 なかなかの賑やかさでどよめいて帰る人馬のざわめきを、大堰の里の明石の君は、遥か遠く隔てて聞きながら、光源氏の名残りも淋しく、しんみり物思いに沈んでいた。


 光源氏は、手紙さえ明石の君に届けないで、出発してしまった、と心にとがめているのだった。

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