松風 その二十二
桂の院には引き出物の品の用意もないので、大堰の明石の君のところに、
「あまり大げさでない品物はないだろうか」
と、使いをやった。
明石の君はとりあえずあり合わせたものを、そのまま渡した。衣装櫃二つに入っている。
勅使の弁は早々に引き返したので、光源氏は女の衣裳を祝儀として与えた。
久かたの光に近き名のみして
朝夕霧も晴れぬ山里
光源氏が奏したこの歌は、帝の行幸を待っているという気持ちなのだろう。
ひきつづき、〈久方のなかに生ひたる里なれば〉という古歌を、口ずさみになりながら、あの明石で望まれながら古歌を吟じたことを思い出した。
それは躬恒の歌で、躬恒が、淡路でぼんやり遠くで見た月にひきかえ、今宵宮中で見る月が明るく近々と見えるのは、都という所柄のせいか、と訝しがったというものだった。それにかこつけて、今の自分の気持ちを話すと、聞いている人々の中には感動のあまり、酔い泣きする人もいるようだった。
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