松風 その十七
光源氏は衣裳をつけて、
「まったく体裁の悪いことだね。こんなに易々とは見つけられそうもない隠れ家だと思っていたのに」
と言って、騒がしさに急きたてられるように出て行った。光源氏は明石の君が不憫なので、さりげないふりをして戸口で立ち止まった。乳母がそこに姫君を抱いて姿を見せた。光源氏は、いかにも可愛いといった表情で、姫君の頭をなでて、
「これからは姫に会わないとさぞ辛いことだろうが、これもまったく身勝手な話だね、一体どうしたらいいのだろう。ここは何といっても遠すぎるし」
と言うと、乳母は、
「遠くで、諦めきっておりましたこれまでの年月よりも、むしろこちらでのこれからの扱いが心細いようなら、不安で心をすり減らすことでしょう」
などと言う。
姫君は手を差し出して、光源氏が出かける後を追うので、光源氏は膝をついて、
「不思議にいつまでたっても悩み事の絶えない私だね。ほんのしばらくの別れにしてもほんとうに辛い。どうしたものか。母君はなぜ一緒に出てきて別れを惜しんでくれないのだろう。見送ってくれたら、こんなに辛い胸も少しは人心地がつくだろうに」
と言うと、乳母は笑いながら、明石の君にこれを報告した。
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