松風 その十八

 明石の君はなまじ久しぶりの逢瀬に、身も心も掻き乱され尽くして、死んだようになってしまったので、すぐには起き上がることもできなかった。


 光源氏はそんな明石の君の様子を、あんまり貴人ぶってもったいぶっているようにとった。


 女房たちも困っているので、明石の君は渋々にじり出てきて、几帳に半ば隠れている横顔は、とても魅力があふれている。たおやかな物腰の上品さは、内親王といってもいい足りないだろう。


 光源氏は几帳の垂れ絹を引き上げて、やさしく話す。前駆のものたちが、立ち騒いで待っているので、光源氏は出発して、ふと振り返ってみると、明石の君も、あれほど乱れていた心を強いて鎮めたものの、名残惜しさにさすがに見送った。


 光源氏はたとえようもないほど立派な男盛りの顔や姿なのだった。明石のころはほっそりとした高い背格好だったのが、この頃は少し背丈に釣りあうほどに太った姿など、これでこそ貫禄がついたというもので、指貫の裾に至るまで、しっとりとした色気があふれ、愛嬌が零れ落ちるように見受けられるのは、あまりな贔屓目というものだろうか。


 あの須磨、明石の当時、免官されていた蔵人も、今では復職した。靫負の尉を兼ねて、今年従五位に叙せられているのだった。

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