松風 その十一
光源氏は明石の人たちを迎えて、かえって心が落ち着かないので、人目をそう憚ってばかりもいられなくなり、ついに大堰に訪ねて行った。紫の上には、明石の君が上京したともはっきり知らせていないのに、例によって噂が耳に入り、やはりそうだったのかと思われてもまずいと心配になって、自分から打ち明けた。
「桂の別荘に用事があるのに、いやどうも、つい心ならずも日が過ぎてしまった。訪ねる約束をした女もその近くにいて、待っている様子なのも、可哀そうだし、行ってきます。嵯峨野の御堂にも、まだ飾りつけの終っていない仏像があって、そのお世話もあるので、二、三日はかかりそうです」
と言う。桂の院というところを、急に造営になっていると聞いているのは、そこに明石の君を迎えたのかと思われると、紫の上は面白くない。
「斧の柄が朽ちてすげかえなければならないほど長い留守なのでしょう、待ち遠しいこと」
と、納得せずに機嫌が悪い様子だった。
「またまた例によって、誰にも比べようもないほどの邪推ぶりですね。私は昔とはすっかり変わってしまって浮気もしないと、世間でも言っているのに」
と、何やかや機嫌をとっているうちに、日も高くなってしまった。
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