絵合 その十七
帥の宮は、
「何の芸能でも、本気で打ち込まないと習得できるものではありませんが、その道々に師匠というものがありますから、学ぶ方法のある者は、習得の深さ浅さは別として、自然、習っただけの成果は得られるでしょう。書や絵の道と碁を打つことだけは、不思議に天性の才能の差があらわれるものです。深い稽古を積んでいるとも思われないつまらないものでも、結構持って生まれた天分によって書いたり打ったりするものも出てきますが、名門の子弟の中には、やはり抜群の才能の人がいて、何を習っても会得して上達するように思われます。亡き桐壺院のお膝元にいられた、親王たちや内親王たちは、どなたもそれぞれ諸芸の道をお習いにならなかった方はいらっしゃらないでしょう。その中でもとりわけあなたは、特別の熱心さで教えを受け、習得なさった甲斐もあって、詩文の方は言うまでもなく、それ以外の伎では、琴をお弾きになるのが第一で、次には横笛、琵琶、筝の琴など、次々に習得なさっていらっしゃると、亡き桐壺院もお認めでした。世間の人もそう存じ上げておりましたが、絵は、筆のついでの慰みに、気軽になさる遊びばかりと思っておりました。それがまあ、呆れるほどお見事で、昔の墨描きの名人たちも、逃げ出してしまいそうにお上手なのは、かえってどうも感心できませんな」
と、酔ってしどろもどろに言った。酔い泣きというのだろうか、帥の宮は亡き桐壺院の話などしながら、姉妹には皆そろって涙を流すのだった。
二十日あまりの月がさし上って、その光がこちらまではまだ届かないが、いったいに空の景色が月光で美しい時刻なので、書司から琴を取り寄せて、頭の中将に和琴を渡した。光源氏がいくら名手だといっても、この頭の中将も人にすぐれて上手だった。帥の宮は筝の琴、光源氏は琴、琵琶は少将の命婦がつとめた。殿上人の中で、音楽に堪能なものを呼び、拍子をとらせる。合奏はとても趣深く演じられた。夜の明けはなれてゆくにつれて、花の色も人々の姿もほのかに見えはじめ、鳥の囀る声も晴れ晴れとして、素晴らしい朝ぼらけだった。
贈り物の品々は、藤壺の宮から贈られた。帥の宮は、帝から衣をまた重ねていただくのだった。
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