絵合 その十二

 光源氏も参内し、こんなに左右それぞれ言い争い、色めきたっている女房たちの様子を、面白く感じ、



「同じことなら、いっそ帝の前でこの勝負を決めましょう」



 と言うのだった。光源氏はかねてからこのようなことがあるかもしれないと予想していたので、手持ちの絵の中でも特別優秀なものは、残していた。あの須磨と明石の二巻を、今回は考えがあって、左方に加えたのだった。


 頭の中将も勝負に勝ちたいという気持ちは、光源氏に劣らない。そんなわけでこの頃世間では、面白い紙絵を集めることがすっかり天下の流行となってしまった。光源氏は、



「今度のために、わざわざ描かせるのは絵合わせの趣旨にもとる。ただ持ち合わせているものだけで勝負したほうが」



 と言うけれども、頭の中将は、誰にも内緒の、秘密の部屋を用意して、そこで絵師に描かせているようだった。


 朱雀院もそうした評判を耳にして、前斎宮に、いくつかの絵を贈った。その中には、一年中の色々な節会などの、興趣のある有様を、昔の名人たちがそれぞれに描いた絵に、延喜の帝が直筆で、絵の説明を書いたものがあった。また、朱雀院自身の在位中のことを描かせた巻に、あの斎宮が伊勢に下った日の大極殿の儀式を、心に強く留めていたので、構図までが細かく指示して、名人の巨勢公茂が描き、それは見事な出来栄えのものも贈ったのだった。

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