絵合 その十一
次に伊勢物語に正三位物語を合わせて、また判別がつきかねた。これも右は面白く華やかに、宮廷の光景をはじめとして、近頃の世の中の有様を描いた点は、風情があって見所もまさっている。左方の平の典侍は、伊勢物語を弁護して、
伊勢の海の深き心をたどらずて
ふりにし跡と波や消つべき
「世間にありふれた恋物語を、面白おかしく筆の技巧だけで書いてるのに圧されて、業平の名声を台無しにしてよいものですか」
と、抵抗するが旗色が悪いようだった。右方の大弐の典侍は、
雲の上に思ひのぼれる心には
千尋の底もはるかにぞ見る
と応酬した。結局、藤壺の宮が、
「兵衛の大君の気位の高さは、確かに捨て難いけれど、在五中将業平の名を汚すことはできないでしょう」
と言って、
見るめこそうらふりぬらめ年経にし
伊勢をの海人の名をや沈めむ
と詠んだ。こうした女同士の論争がやかましく言い続けられているので、物語一巻の判定にどれほど言葉を尽くしても、なかなか勝負が決定しなかった。それでも若い心得のない女房などは、ただもう死ぬほどこの絵合の様子をどういうものかと見たがっているが、帝づきの女房も藤壺の宮づきの女房も、ほんの片端さえ見ることができない。それほど藤壺の宮はこの催しを内密にしていた。
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