絵合 その十三

 優雅なすかし彫りの沈の木で作った箱に、同じような趣向の飾り物の枝を添えた様子など、いかにも現代風だった。便りは口上だけで、宮中にも、院の御所にも仕えている左近の中将を使いにした。


 あの大極殿に斎宮の御輿が寄せられた神々しい絵に、




 身こそかく標のほかなれどのかみの

 心のうちを忘れしもせず




 とだけ書かれていた。返歌をしないのも畏れ多いので、前斎宮は心苦しく思いながら、昔のあの儀式に挿した櫛の端を少し折って、




 しめのうちは昔にあらぬここちして

 神代のこよも今ぞ恋しき




 と書いて、薄藍色の唐の紙に包んだ。使者への贈り物なども、とても優美なものだった。


 朱雀院はその返事を見て、限りなく深い感慨を呼び覚ました。それにつけても在位中の昔を取り返したく思うのだった。一方では、光源氏のすることもあんまりひどいと、恨んだことだろう。それもこれも、昔、光源氏に自分のしたことへの報いということなのだろうか。


 朱雀院の絵は、母親である弘徽殿の女御から伝えられたものだった。右方の今の弘徽殿の女御は、朱雀院の母親の姪に当たるので、そちらへもたくさん朱雀院の母親から絵が集まっていることだろう。朧月夜も、こういう物語絵への趣味は人に優れていて、色々と趣向を凝らして、弘徽殿の女御のために集めているのだった。

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