絵合 その七

 二人への寵愛はそれぞれに厚く、互いに競い合っている。


 帝は何にもまして、絵に興味を持っていた。とりわけ好きなせいもあってか、自身でもまたとなく上手に描いた。前斎宮も、絵がとても上手だったので、帝はこちらに心を移し、終始一緒に絵を描きあって心を通わせた。若い殿上人たちでも、絵を習うものに帝は眼をかけて、贔屓にしていた。まして美しい人が、趣のある様子で、形式にとらわれず、興にまかせてのびのびと描き、あでやかに机によりかかって、さてどう描こうか、と筆を休めている、その可愛らしさに帝は心を惹かれて、しげしげ起こしになり、前よりも一層寵愛が深くなった。


 頭の中将はそれを聞くと、目立ちたがりで派手な性分から、負けてなるものかと闘志を燃やして、こちらも優れた絵師の名人を召し集め、厳しい注文をつけて、またとないほど見事な絵を、極上の紙にあれこれと描かせた。頭の中将は、



「絵の中でもとりわけ物語絵は、情趣が深く見ごたえのあるものだ」



 と、筋の面白い味わい深い物語ばかり選りすぐって描かせた。よくある月ごとの風景や行事絵も、目新しく、詞書を長々と書き込んで、帝に見せた。特に趣向を凝らしているので、帝はまた弘徽殿の女御のほうにも寄るようになり、こちらの絵を見るようになった。頭の中将はもったいぶって易々と出さず、ひどく秘密にして、帝が前斎宮のほうへこの絵を持っているのを惜しがって、手放さなかった。


 光源氏はそれを聞いて、



「やはり頭の中将の大人気ない気の若さは、相変わらずだな」



 などと笑った。



「むやみに隠して、素直にお目にかけず帝の気を揉ませたりするとは、まったくけしからぬことです。私のほうに、古代の絵が色々とございます。それをさし上げましょう」



 と帝に言った。

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