絵合 その三

 前斎宮はそれを聞き、とても恥ずかしく思いながら、昔のことを思い出すと、いかにも悲しそうに泣いた様子を、幼心にも、何となくしみじみと身にしみて拝見していたのが、つい昨日今日のように思われる。その上、亡くなった母である六条御息所のことなども、それからそれへもの悲しく思い出し、返事もただこんなふうに、




 別るとてはるかに言いし一言も

 かへりてものは今ぞ悲しき




 とだけ、書いたようだ。使者への祝儀には、それぞれにふさわしい様々なものを与えた。光源氏はどんな返事をしたのか見たくてならないのだが、さすがにそうは口に出さなかった。


 朱雀院の容姿は女にして見てみたいぐらいの美しさだが、この斎宮の様子もそれに不釣合いではなく、年恰好もふさわしくて、本当にお似合いだった。ところが帝はまだ十三歳で子供っぽく、斎宮は九歳年上だった。それなのに朱雀院の考えに逆らってこんなふうにことを運んでしまったことを、斎宮も内心不快に感じてはいないだろうかなどと、光源氏は嫌な気をまわし、胸を痛めた。

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