絵合 その二
光源氏はこれを見つけて、この件で自分があれこれ画策したことを思い出すと、朱雀院に対して畏れ多く、気の毒でならなかった。いつものままならぬ恋にひかれる自分の性分を顧みては、わが身につまされて、
「昔、斎宮が伊勢に下るとき、どうやら朱雀院が斎宮を見初められたらしい。それがこうして何年も経って斎宮が京に帰り、ようやくその恋も叶えられようという今、こんな意外な成り行きになってきたことを、朱雀院は何と思っているだろうか。位を去られてから淋しくなられ世の中を恨めしく思っているだろうに。もしも自分がその立場になればとても平静でいられないことだ」
と色々と考えると、朱雀院がいたわしくてならない。
「どうしてこんな強引で意地悪なことを思いついて、気の毒にも院の心を苦しめるのだろう。自分も須磨で苦労していたときには、院を恨みもしたけれど、その一面また、やさしく情の深い人でもあるというのに」
などと思い悩み、しばらく物思いに沈んでいた。
「この返事はどんなふうに書きますか。また、この歌のほかに手紙もあったでしょう。それには何と書かれていたのですか」
などと尋ねるが、女別当は具合が悪いので、朱雀院の手紙は目にかけていない。前斎宮は気分も悪く、返事を書くのも、気が進まないようだったが、
「返事をさし上げないのも、いかにも情がないようで、畏れ多いことでしょう」
と女房たちがすすめるのに手を焼いている気配を、光源氏は物越しに聞き、
「返事をなされないなどとは、とんでもないことです。ほんの形ばかりでも返事をさし上げなければ」
とすすめるのだった。
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