蓬生 その二十五

 もうこれまでと見くびって、思い思いに我先にと競って散り散りに去っていった上下の女房や召使たちも、こうなると我も我もと先を争って帰参したがった。末摘花の性質が、これまた内気すぎて困るくらい人がよいので、これまでは気楽な奉公に慣れていたのだった。それが鞍替えして大したこともないつまらない受領の家などに奉公していたものは、今まで味わったことのないばつの悪い思いを経験し、たちまち手のひらを返したように現金に舞い戻ってくるのだった。


 光源氏は、昔にも勝る威勢の上に、帰京のあとは思いやりが、何かとひとしお深く加わり、末摘花に対してもこまごまと行き届いた指図をした。


 おかげで末摘花の邸は急に活気付いて、次第に人の姿も多くなった。庭の草木も、これまではただ荒れるに任せて物淋しく見えていたのに、鑓水の塵芥をさらい、前庭の植え込みの根際も、すっきりと下草を刈り涼しそうになった。これまで光源氏に目をかけてもらえなかった下級の家司などで、何とかして仕えたいものだと下心のあるものなどは、光源氏が末摘花を並々でなく寵愛しているようだと推察し、ひたすら末摘花の機嫌を伺って、追随して仕えるのだった。


 二年ばかり、末摘花はこの古い邸に物思いの日々を暮らした。その後、二条の院の東の院というところに、光源氏は末摘花を移した。そこに通って泊まることなどは、なかなか難しかったが、本邸に近い敷地の中なので、何かで東の院に出かける折には、ちょっと覗いたりして、それほど軽んじた扱いもしなかった。


 あの叔母君が都に上ってきて驚いた話とか、侍従が末摘花の幸せな様子は嬉しく思うものの、あのとき、もうしばらく辛抱して待てなかった自分の心の浅はかさを、身にしみて悔やんだことなど、もう少し問わず語りもしたいのだが、今日は頭痛がして、鬱陶しくて気が進まない。そのうちまた機会があったら、思い出して話すこととしよう。

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