蓬生 その二十二

 今夜ここに泊まるとしても、荒れた邸の様子をはじめとして、光源氏がいかにもそこに似つかわしくないまぶしいほど立派な様子なので、適当に言い逃れをし、立とうとした。自分が植えたのではないけれど、松が高く育ってしまったのに、年月の長さもしのばれて感慨深く、夢のようなその間の浮き沈みの激しかった、自身の身の上なども思い続けられるのだった。




 藤波のうち過ぎがたく見えつるは

 松こそ宿のしるしなりけれ




「数えてみれば、何とまあお逢いしない歳月の長く過ぎたことでしょう。その間に都にも変わってしまったことが色々多くて、あれもこれも心が痛むことばかりです。そのうち落ち着いたらゆっくり、田舎で落ちぶれていた頃の苦労話を何もかもお聞かせいたしましょう。あなたもこれまで過ごしてきた幾春秋の暮らしの苦労なども、私のほかに誰に訴える人があるだろうかと、心の底から何の疑いもなく信じられますのも、考えてみれば不思議なことですね」



 などと言うと、




 年を経て待つしるしなきわが宿を

 花のたよりに過ぎぬばかりか




 と言い、ひっそり身じろぎする気配も、漂ってくる袖の薫物の香も、昔よりは大人っぽく女らしくなったのかと思った。

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