蓬生 その二十一
末摘花は、それにしてもいつかはきっと来ると、待ち暮らしてきた甲斐もあって、とび立つ思いだったが、こんなひどい、みすぼらしく恥ずかしい身なりで逢うのも、きまりが悪かった。叔母君が置いていった着物なども、嫌いな人のくれた因縁のある品物だからと、見向きもしなかったのを、側の女房たちが、香を入れる唐櫃に収めておいた。香の匂いが召物にしみて懐かしい薫りがするので、それを差し出した。末摘花はどうにも仕方なく着替え、例のすすけた几帳を引き寄せて座った。
光源氏は部屋に入り、
「長年ご無沙汰しておりましても、私の心はずっと変わらず、あなたのことを案じておりましたのに、そちらからは一向にお便りもくださらないのが恨めしくて、今まで心を試していたのです。あの、〈恋しくはとぶらひ来ませ〉という三輪のしるしの杉ではありませんが、こちらの邸の木立がありありと目につきましたので、素通りもできず、とうとう根負けしてお訪ねしてしまいました」
と話し、几帳の帷子を少しかきのけて見ると、末摘花は例のひどく恥ずかしそうな様子ですぐに返事をしなかった。それでも、こうまでして草深い露を分け入ってくれた心の深さに、末摘花は心をふるい起こして、ようやくほのかな声で答えるのだった。光源氏は、
「このような草深い邸に、長の年月ひっそりと暮らしていたいたわしさは、一通りではない。また私は自分が心変わりできない性分なものですから、あなたの気持ちも確かめないまま、こうして涙の露に袖を濡らしながらお訪ねしたのです。そんな私の気持ちを、どう思いますか。長年のご無沙汰は、それはそれとして、どなたに対しても同じことでしたから、大目に見て許してくださいましょう。これから後は、私が心に添わないようなことをいたしましたら、それこそ約束にそむいたという罪を負いましょう」
など、それほど深くも思っていないことでも、さも情愛がこもったように上手にあれこれと話したようだった。
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