蓬生 その二十三

 月の沈む頃になって、西の妻戸の開いているところから、さえぎる渡り廊下のような建物もなく、軒端なども残りなく朽ち果てているので、月光がとても華やかに差し込んでいた。そこかしこが月光に照らし出されて、昔と変わらない部屋の飾りつけなどが、軒の忍ぶ草が生い茂って見る影もない外観よりは、気品高く見えた。昔の物語に、夫の留守に塔の壁をこわして夜通し灯りをともしつづけて身の潔白を証明したという貞節な妻の話があった。その物語の妻のように、他の男にも頼らず、年月を過ごしてきたのも、つくづく不憫だと感じる。


 ひたすら恥ずかしそうにしている末摘花が、やはり何といっても気品があるのも、奥ゆかしく感じられるのだった。そういう点をこの方の取り柄としていじらしく思い、忘れずに世話しようと、昔はいたわしく思っていたのに、長年、いろいろな苦労をしていたので、ついうっかり訪れなかった間、さぞ怨んでいたことだろうと、可哀想に思った。


 あの花散里も、目だって当世風にするなど、派手にしない人なので、そちらと比べても大した違いもなく、末摘花の欠点もそれほど目立ちはしないのだった。

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