蓬生 その十五
侍従も泣くばかりで、ものもろくに言えない。
「母の遺言は今更申し上げるまでもありません。これまで耐えられないほどの暮らしの辛さも、辛抱してまいりましたのに、こんな成り行きで思いがけない旅路に誘われて、はるばる遠い国までさまよっていくことになってしまうとは」
と言って、
玉かづら絶えてもやまじ行く道の
手向の神もかけて誓はむ
「寿命ばかりは逆らえませんけれど、命ある限りは」
などと話しているときに、叔母君から、
「どうしたの。暗くなってしまったから早く帰らないと」
と、小言を言われて、侍従は心も上の空に車に乗って、後ろばかり振り返りながら出て行くのだった。
長い年月、辛い思いをしながらも側を離れなかったものが、こうして別れていってしまったのを、末摘花は、ほんとうに心細く感じるのだった。もう使い道のなくなったような老いぼれた女房たちまでが、
「いやもう、侍従が出て行ったのは無理もないことですよ。侍従のような若い人がどうしてこんなところに残るものですか。私たちだって、とても辛抱しきれませんよ」
と、それぞれ自分たちの縁故を思い出して、出て行こうと話していた。末摘花はそれを気まずく聞いている。
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