蓬生 その十四
それでも末摘花の心は動きそうもないので、叔母君はあれこれ終日、説得してみたものの、ほとほと困り果て、
「では、せめて侍従だけでも」
と、日の暮れるにつれて帰りを急ぐので、侍従は気ぜわしい思いで、泣く泣く、
「それでは、とりあえず今日のところは、こんなにまでおっしゃいますから、お見送りだけでも行ってまいりましょう。あちらのおっしゃることもごもっとも、また末摘花様が迷うのも道理でございますので、間に立って伺っていますのも辛くてなりません」
と、こっそり言った。
侍従までも自分を見捨てて行こうとするのかと、末摘花は恨めしくも悲しいものの、引き止める言葉もないので、いっそう声をあげて泣くばかりだった。
形見に与えたい普段身につけている衣裳も、着古して汗じみているので、長年尽くしてくれた労苦に対して、感謝の気持ちを表すものもなかった。自分の髪の抜け落ちたのを集めて鬘にしたのが、九尺余りの長さでそれはもう見事なのを、綺麗に箱に入れた。それに、昔から宮家に伝わっている薫衣香の、素晴らしい薫りのものを一壺添えて与えた。
絶ゆましき筋を頼みし玉かづら
思ひのほかにかけ離れぬる
「亡くなった乳母の遺言もあったことだし、不甲斐ない私だけれど、あなたは最後まで世話してくれるものと思い込んでいました。こうして見捨てて行かれるのも仕方がないけれど、これから先、誰にこの私を任せる気なのですか。そう思うとたまらなく恨めしくて」
と、激しく泣くのだった。
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