蓬生 その八
そうこうしているうちに、光源氏は帝に赦免されて、都に帰ってきた。天下の人々は狂喜して上を下への大騒ぎになった。自分こそは、どうかして誰よりも先に、光源氏に対する深い忠誠心を認めてもらいたいとばかりあせって、先を争う男女の有様に、光源氏は身分の上下に関わらず、あらゆる人々の心の表裏をすっかり見てしまい、つくづく世間について悟ることが色々とあった。
それやこれやの忙しさで、光源氏は、末摘花のことなどは、思い出すこともないままに月日が過ぎていった。
末摘花は、
「ああ、もうこれでおしまいなのだわ。これまで長い年月、光源氏さまの思いもよらない身の上をたまらなく悲しく思いながらも、やがてまた早蕨の萌え出る春のように屈託もない日を迎え、私とお逢いしてくださるようにと、ずっと祈り続けてきたけれど、しがない下々の者たちまでが喜んでいるという光源氏さまの昇進のことなども、私は他人事のように聞いていなければならない。あの悲しかった光源氏さまの都落ちのときの辛さは、ただ自分ひとりが背負うために起こったことのように感じられたものだったのに。それも今となっては甲斐ない光源氏さまとのはかない仲だったのね」
と、心も打ち砕かれたように思い乱れて、恨めしく悲しいので、末摘花は人知れずひたすら声をあげて泣くばかりだった。
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