蓬生 その七

「自分の身分がこんなふうに、一段と低く見下げられていた意趣返しに、宮家の零落のこうしたときをよいしおに、何とかして末摘花を私の娘たちの召使にしてやりたいものだ。性質などはとんと時代遅れで古臭いところはあるけれど、末摘花ならきっと安心できる介添役にふさわしいだろう」



 と考え、



「時々私どもの家にもおいでくださいまし。あなたのお琴の音を聞きたがっている娘がいますから」



 と言った。この侍従も、いつもはオススメするのだが、末摘花は、意地を張り合う気持ちからではなく、ただ大変な恥ずかしがりやなので、それほど親しく付き合いをしないのを、叔母君は忌々しく思った。


 そうこうしているうちに、叔母君の夫が大宰府の大弐になった。娘たちをみなそれぞれ縁づけておいてから任国へ赴任しようとする。


 それでやはり末摘花を何とかして誘い出そうと執念深く考え、



「こうしてはるばる遠くへ行くことになりました。普段はよくお見舞いもしていませんが、近くにいて安心だった間はともかく、これからは、あなたの心細い暮らしが、とても可哀想で気がかりでなりません」



 などと言葉巧みに言うのを、末摘花は一向に受け付けないので、



「まあ、憎らしい。もったいぶって。自分ひとりで自惚れていたって、そんな草茫々のところに、何年も住み着いているような人を、どうして光源氏さまが大切に世話しようと思うものですか」



 などと、怨んだり罵ったりするのだった。

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