澪標 その六

 光源氏としては、自身が帝位につくなどという、全くかけ離れた筋のことは、決してあってはならないと思っている。



「多くの皇子たちの中でも父帝が私をとりわけ寵愛くださったのに、それでも臣下にしようと決心した心中を思うと、帝位には全く縁遠い自分の運命だったのだ。今の帝がこうして即位したことは、帝が実はわが子という真相は、誰も露知らないけれど、人相見の予言は誤りではなかったのだ」



 と、心の中で考えた。現在の有様や、将来のことを予想してみると、



「全ては住吉の神の導きであった。たしかにあの明石の人も、世にまたとない宿縁があって、だからこそあの偏屈者の入道も、分不相応な望みを抱いたのだっただろうか。そうだとすれば、将来畏れ多い皇后の位にもつくべき人が、あんな辺鄙な片田舎で生まれたというのでは、いたわしくも、もったいなくもあることだ。今しばらくしてから、ぜひ都にお迎えしなければ」



 と考え、二条の東の院を、急いで修理するよう、督促した。


 あんな片田舎では、まともな乳母も見つけにくいことだろうと日は考えるのだった。

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